「まるでゾンビが歩いているような光景だ」

昔こんなことを言っている人がいたのを覚えています。

というのも、あまりに姿勢が悪い人が多いからです。僕も職業柄、ほぼ無意識レベルで人の姿勢を観察してしまう癖がありますが、街を歩いていて姿勢が良い人を見かけるのは、だいたい1000人に1人くらい。100人に1人はいないので、感覚としては1000人に1人くらいです。それだけ姿勢が良い人がいないということです。

僕は、さすがにゾンビまでとは言いませんが、正直「老けて見えるな」とは感じます。背中は丸まり、顔は前に突き出て、膝は折れ、お尻は垂れ下がっている。まだ年齢的には若いにも関わらず、姿勢が悪いが故に、どこか弱々しく、年老いて見えるのです。

姿勢が悪くなる原因は多くありますが、僕は主に次の3つだと考えています。

・長時間のデスクワークとスマホ
・日本人特有の気質
・そもそも”姿勢”という概念がない

デスクワークとスマホに関しては説明不要でしょう。それらに向き合っている時、すでに悪い姿勢になっていることはもちろんですが、同じ姿勢で一つのことを続けていると、やがて筋肉は凝り固まります。筋肉が凝り固まると、その姿勢が形状記憶されますので、いざ正しい姿勢をつくろうとしても、テンション(引っ張られる力)に抗う必要があるので、逆に疲れます。ちょうど硬いゴムを引っ張り続けるようなイメージです。

ラクをしたいのが人間の性(さが)ですから、本来は悪い姿勢のはずの姿勢がラクに感じてしまい、その姿勢が定着してしまうという流れです。

また、日本人の平均的なスマホの使用時間は2 ~ 3時間と言われています。このあたりは個人差はあるでしょうが、それでもスマホとの距離感が近くなっているのは事実です。デスクワークから解放されるや否や、今度はスマホに触れる時間がプラスされますので、1日のほとんどの時間を、前屈みの姿勢で過ごしていると言えます。

次に、日本人特有の気質も影響していると考えています。僕はたまに「なんでそんなに胸張ってるの?」と言われることがあります。当然、胸を張っているわけではなく、ただ背筋を伸ばしているだけです。にも関わらず、胸を張っているような印象になってしまうのは、それだけ「猫背が日本人のスタンダードな姿勢」になっていることの裏付けでもあります。

また、日本人は「他人の顔色を伺う気質」が強いため、背筋を伸ばすという行為が「自分に自信がある = 高飛車」のようなネガティブなイメージに捉えられてしまう傾向があるのでしょう。そうした日本人の気質的な部分も、猫背を量産している原因だと考えています。

最後に、そもそも姿勢という概念がないことが挙げられます。例えば、あなたは道を歩いている時、なにを意識しているでしょうか。きっと、美味しそうなカフェを探したり、車の行き来に注意を払ったり、人のファッションを観察したり、目的地についてからの行動を考えたり、さまざまでしょう。ただ、あなたの「内的な部分」はどうでしょう。内的な部分には、髪型やメイク、ファッションなど色々なものがありますが、ここでは「姿勢」のことです。普段、姿勢を意識している人はそこまでいないのではないでしょうか。

モデルさんが常日頃から姿勢に気をつけているように、あるいは、アスリートが接地感覚を鈍らせないように足元に注意を払っているように、普段の「意識レベル」あるい「意識の置き所」の違いが大きいと僕は考えています。

駅の階段一つとってもそうでしょう。日頃運動していない人にとっては大変な運動ではありますが、運動習慣のある人にとっては「今の体のコンディションを図るためのチェックツール」でもあるのです。今日は息が上がるな、接地感覚は悪くないな、ふくらはぎが疲れるな、ちゃんとお尻に効いてるな、など階段をのぼる行為一つとっても、意識の差に圧倒的な違いがあるのです。

では、正しい姿勢とはなんなのか。

専門家の間では「耳垂、肩峰、大転子、膝蓋骨後面、外顆2 ~3cm前方」が一直線に並んだ姿勢が、正しい姿勢と言われます。格子状のシートの前に立ち、姿勢評価をした経験のある方も多いかと思います。

ただ、僕はこれは理論上の話であって、ほとんど役に立たないと考えています。というのも、いざ姿勢評価をはじめると、良い姿勢を意図的に作ろうとしてしまうからです。指導者に見られていることの緊張感もあるでしょうし「悪い姿勢だったらどうしよう」という懸念もあるでしょう。姿勢というのは、体の構造的に難しい場合を除き、ある程度は「誤魔化し」ができてしまうのです。

例えば、あなたは子供の頃、身長測定で1mmでも背を高くするために目一杯背筋を伸ばした経験があるはずです(これは実寸なのでまだいいとして)。他にも、健康診断があるから、今週は食事を控えめにしようとしたことはないでしょうか。それと似ています。こちらはとしてはあなたの「素の状態(ナチュラル)」を知りたいのです。そうでないと、評価というものはほとんど役に立ちませんから。

なので、僕がいつあなたの姿勢を見てるかというと「初対面の時(1秒以内)」です。2回目にお会いする時はもう通用しませんから、その一瞬のチャンスを僕は見逃しません。つまり「トレーニング以外の時間」です。ジムでのトレーニングはせいぜい1時間くらいでしょうから、そこで綺麗な姿勢を作ろうとしてもたかが知れているのです。本当に大切なのに「ジム以外の時間でどう過ごすか」だからです。

僕の信条の一つに 「最高のトレーナーはあなた自身である」があります。つまり、本当の意味であなたの体に変化を起こせるのは「あなた自身だけ」であるということ。トレーナーというのはあくまでキッカケを与えるだけの存在なので、あなたの体はあなたがTrain(育てる)していかなければならないからです。「僕があなたにできるのはここまで。後はあなたが自分自身を育てていかなければならない」というように、明確な線引きをしています。そうでないとトレーナーに依存的になり「トレーナーありきの体」になってしまうからです。

正しい姿勢なんて言うと、小難しく聞こえるかもしれませんが、僕が意識しているのは「背筋を伸ばして、腹をやや締める」たったこれだけです。

腹をやや締める理由は、背筋を伸ばすだけだと腹の力が抜けてしまうから。体の中枢は腹にあると考えていますから、ここがフニャフニャするのはよろしくないのです。中は硬く、外は柔らかく。これが僕の考えです。

あとは、良い姿勢を取り続けないことです。矛盾するような考えですが、良い姿勢を取り続けることも、結局は同じ筋肉を長時間使い続けるようなものですので、体への負担となります。

よく「ちょっと気を抜くと猫背になっちゃうんですよね」という人がいますが、それもそれで正解だということです。24時間フル稼働なんてあり得ませんから。「自宅では姿勢を崩す」「外を歩く時は姿勢を正す」という具合に、あなたの中で意識に変化を加えてください。

いま、この瞬間からあなたは1000分の1の存在である。